menu

研究テーマ

生き物も、道端の石のような無生物も、どちらも同じ「物質」からできています。しかし、生き物には驚くべき特徴があります。それは、自らの設計図である遺伝情報をもとに、自ら体を作り上げることです。また、暑くなれば汗をかくように、周囲の状況に合わせて自ら変化します。さらに、筋肉組織では、多数の筋細胞が協力して収縮することで、個々の細胞だけでは不可能な「体を動かす」という大きな力を生み出します。脳では、神経細胞が電気的な信号をやり取りすることで、自ら思考することも可能です。植物は、光エネルギーを利用して栄養を作り出すことができます。これらの高度な機能は、生き物がエネルギーを消費しながら、ある種の情報を処理しているからこそ実現できるのです。

このように、生物と非生物の間には、科学的に見ても大きなギャップがあります。

物質科学と情報科学が高度に発展した現代において、将来的には、生物のように情報を処理する能力を持つ「知的な物質」を取り扱う科学・技術が不可欠になると考えられます。しかし、このようなテーマは生命科学、情報科学、物理学といった従来の学問分野の枠組みだけでは捉えきれない複合的な課題であり、新たな学術体系の構築が求められています。そこで当研究室では、これらの分野を融合させることにより、生物のような知的な振る舞いを示す物質を対象とした新しい科学の領域を開拓することを目指し、以下のような研究を進めています。

(1) 化学的人工知能のための分子コンピューティング

(2) 人工細胞の合成生物学と医薬・環境応用

(3) 人工知能やロボットを使った自律的な物質・生命科学

(4) 知的なソフトマターの物理・化学

新しい科学ですので、若い研究者や学生がアクティブに活躍できる楽しい分野です。

研究で得られた成果は、化学エネルギーを情報処理に利用する微小な分子コンピュータや、環境に適応し進化するソフトなナノロボットなど、新しい原理の発見やシステムの実現に応用されます。さらに、「生命とは何か」という根源的な問いを、物理学や情報科学の視点から解き明かすことにも貢献します。

化学的人工知能のための分子コンピューティング
(Molecular Computing for Chemical Artificial Intelligence)

生命システムは、最適な状況を見つけ出したり、複雑なパターンを自ら作り出したりします。これらの現象は、生命が自律的に情報を処理し、化学反応を使ってある種の「計算」を行っていると捉えることができます。ここでは、DNAなどの生体分子や液体といった「物質」そのものを使い、ナノスケールで計算を実現する「分子コンピューティング」や「分子プログラミング」といった新しい計算原理を探求しています。物質と情報を融合した新しい生物物理学を開拓します。分子コンピュータは、物理や化学の法則に基づいて分子を直接操作し計算を行うため、将来的には医療や環境問題の解決など、幅広い分野への応用が期待されています。
[詳細はこちら…]

適応・進化する人工細胞の合成生物学と医薬・環境応用
(Synthetic Biology & Biomedical/Environmental Applications)

生命が、非生命の物質からどのように作られ、知性を持つようになったのか。これは科学における大きな謎の一つです。この根源的な問いに迫るため、私たちは「人工細胞」や、環境に適応し進化する能力を持つ「人工生命システム」を実際に創り出す、合成生物学の研究を進めています。DNA、RNA、タンパク質、脂質等を用いて、脂質膜小胞型やコアセルベート型(液-液相分離型)の人工細胞を構築しています。さらに、自律的に働く免疫細胞のような細胞型分子ロボットなどの構築を通して、医薬・環境応用も目指しています。
[詳細はこちら…]

人工知能やロボットを使った自律的な物質・生命科学
(AI and Robot-Based Autonomous Material and Life Science)

近年、人工知能(AI)技術を活用した、分子実験を自動で行うための実験アルゴリズムやロボットシステムが注目されています。DNAのような生体高分子は、その配列自体が情報としての意味を持つため、情報技術との相性が良く、AIによる自動化といった新しい実験スタイルに非常に適しています。この研究では、こうしたAI技術などをさらに発展させ、分子コンピュータや人工細胞を自律的に生成する技術の開発を目指しています。
[詳細はこちら…]

知的なソフトマターの物理・化学
(Physics and Chemistry for Intelligent Soft Matter)

エネルギーや物質、情報が絶えず出入りする「非平衡開放系」で、情報を持つ「やわらかい物質(ソフトマター)」が、まるで生き物のように自ら秩序だった構造やパターンを作り出す「自己秩序化」という現象を探求しています。これは生命システムの複雑な振る舞いを物理学の視点から捉え直す試みです。具体的には、電場・光等による非平衡場のエネルギーや、化学反応による分子の自由エネルギーの変換によって、計算、記憶、自律的な運動、集団での連携といった知的な機能を持つ「アクティブマター」を創り出し、その物理的な仕組みを解明します。これらの知見を、マイクロマシンやソフトロボットにも応用していきます。
[詳細はこちら…]